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「コンピューターの導入によって社内の専門家の生産性が低下してしまった」という指摘

by rawpixel.com

コンピューターの導入は大きく労働者の生産性を向上させたとされており、21世紀においてはコンピューターを使用しないで仕事を進めるのが難しいほどになっています。そんなコンピューターの導入が、「会社内の専門家の生産性を低下させる一因になった」と、ジョージタウン大学でコンピューターサイエンスの准教授を務めているCalvin Newport氏が指摘しています。

On the Law of Diminishing Specialization - Study Hacks - Cal Newport
http://calnewport.com/blog/2018/10/03/on-the-law-of-diminishing-specialization/

Newport氏は、主にコンピューターを始めとするテクノロジーが、どのように社会に影響を与えたのかという研究を行っています。そんなNewport氏は、研究の最中にジョージア工科大学の研究者であるPeter G. Sassone氏が1980年代後半に行った研究に興味を持ちました。

1985年、Sassone氏はアメリカの主要な5つの企業における20のオフィスについて、労働者の生産性についての調査を行いました。Sassone氏が研究を行った当初の目的は、「近年企業に導入され始めたコンピューターが、いったいどれほどの生産性向上をもたらしているのか」を測定する点にありました。しかし、すぐにSassone氏は研究方針の転換を余儀なくされてしまったとのこと。

Sassone氏は「私が収集したデータと分析により、オフィスにコンピューターを導入する際のコストに関する、ある重要な洞察が得られることに気づいた」と述べています。オフィスの生産性を測定するにあたり、Sassone氏は個別の労働者の総合的な生産性だけでなく、業務を遂行するスキルについても測定を行いました。調査を行う中でSassone氏は、「社内で熟練した技能を持つ専門家やマネージャークラスの人材が、膨大な時間を『より業務スキルが低い労働者でも遂行可能な単純なタスク』を処理するために費やしている」という事実に気づいたそうです。


いったいなぜこのような現象が発生しているのかについて、Sassone氏はさまざまな要因を特定しました。そして、企業内の専門家が単純作業に追われるようになってしまった大きな原因として、「生産性向上のために導入されたコンピューターシステム」の導入があったとしています。

新しいコンピューターの導入により、これまで専門のサポートスタッフを必要としていた細々とした管理業務について、サポートスタッフの助けを借りなくても専門家やマネージャーが遂行できるようになりました。結果としてコンピューターの導入は、サポートスタッフの雇用を削減してコストカットを企業にもたらした一方で、専門家やマネージャーが管理業務に割く時間を増大させたとのこと。つまり、熟達したスキルを持つ労働者が本来注力するべき業務に費やす時間が減り、代わりにこれまでサポート部門が行っていた業務の一部を行うようになったのです。

Sassone氏は専門家が熟達したスキルを必要としない業務を行っている事例として、「マーケティング部門の専門家は、1週間に1日以上の時間をプレゼンテーション用のチャートやグラフ作成に費やしている」「銀行家が顧客との間に発生しているルーチンタスクを処理するのに、1日の業務時間の25%以上を費やしている」というものを挙げています。


専門家が集中して仕事に取り組める時間を奪う単純業務の比率は、コンピューターが企業に導入された時点から増大していったとのこと。さらにSassone氏は一歩踏み込んで財政的見地から、「コンピューターの導入によるサポート部門の削減と、専門家が集中してタスクに取り組める時間が減少する」というトレードオフが妥当かどうか検討しました。その結果、Sassone氏は「サポート部門の削減はコスト的に見ても損失がある」と結論づけています。

確かにサポート部門を削減することである程度の人件費が節約可能ですが、高レベルな従業員の生産性を低下させることは、サポート部門削減のメリットを上回る損失をもたらすそうです。Sassone氏は研究対象にしたオフィスについて、サポート部門の人員を増やす一方で専門家やマネージャー部門の人員を少数削減しても、現在と同等のアウトプットが可能だと発見しました。

サポート部門の人員を増やし、専門家やマネージャーが専門的な仕事に集中できる時間を増やすことで、高い給与水準を持つ専門家やマネージャーの割合を減少させることが可能。また、対照的に増加するサポート部門の従業員は比較的給与が低いため、従業員再編によって従業員の総人数が増えたとしても、結果としてコスト削減にもなるとのこと。Sassone氏は「典型的なオフィスにおいては、スタッフを再編して専門家の生産性を高めることで15%のコスト削減になります」と述べました。


Newport氏は、「発達したテクノロジーの導入は、それだけで組織が効率化できるものではありません。専門的なスキルの持ち主が、いかに重要な仕事に注力できるようにするかを考えた組織作りが大切です」と主張しています。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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